教えて! バーボンセイアせんせー! キヴォトス現代噺 セイアフォックス
これは全ての事件が解決した後、シスターフッドのサクラコ様から聞いたお話です。
トリニティ総合学園に、百合園セイアというセクシーフォックスが居ました。
セイアは夢に招いた人を砂糖中毒にしたり、ゲームで友人を砂糖中毒にするRTAを投稿したり、畜生として色々なことをしていました。
ある秋のことでした。
セイアが気まぐれにミレニアムへ訪れると、そこにはセイアの知る友人が居ました。
「ミカだな」
セイアは思いました。
ミカの隣のベッドには、セミナーのユウカが居ました。
ミカは病人食と思われる食事を二口三口食べると、もういらないとばかりに箸を置いて、体をベッドに括り付けて、暴れないように寝てしまいました。
ミカが目をつぶると、セイアはぴょんと飛び出してベッドのそばに立ちます。
ミカの顔がとてもまずそうだったので、セイアは逆に好奇心を刺激されてしまい、ちょいと食事を盗み食いしてみたくなったのです。
「うん、まずいな」
無味の食事は美味しいとはとても言えず、思わず口から言葉がこぼれてしまいました。
その途端にミカが寝返りを打って目を見開きました。
「うわあっ、セイアちゃん!? どうしてここに?」
セイアはびっくりして飛び上がり、すぐさま逃げ出しました。
手錠で体を括り付けているミカは追っては来れませんでした。
セイアはほっとして、口直しに砂糖たっぷりの料理を腹いっぱい食べました。
十日ほどたって、セイアがエンジニア部の部室を通りかかると、ノアがエンジニア部に鞭を打ちながら一心不乱に兵器の開発を進めていました。ゲーム開発部の部室を通りかかると、そこはもぬけの殻でした。
「ふふん、何かあるんだな」
とセイアは思いました。
「何だろう、秋祭りかな? 祭りなら、太鼓や笛の音がしそうなものだ。それに第一、屋台の出店が出るはずだが」
聞きかじった知識でこんなことを考えながら歩いていると、ミカの病室まで辿り着きました。
部屋の中にはミカが一人だけポツンと座っていました。
隣のベッドに花を供えて、祈るように両手を組んでいました。
「ははん、死んだのはユウカか」
得心がいったように、セイアは頷きました。
「ユウカは床についていて、砂糖が食べたいと言ったに違いない。それでも克服しようとまずい病人食で頑張っていたのだろう。それなのに、ユウカは死んでしまった。きっと砂糖が食べたい、ロールケーキが食べたいと思いながら死んだんだろう。ちぇっ、死ぬなら食べさせてやればよかった」
ユウカがいなくなったので、病室はミカだけになりました。
「私と同じ独りぼっちのミカか」
後ろから見ていたセイアはそう思いました。
セイアはミカのまずい病人食を、そっと砂糖たっぷりのロールケーキにすり替えました。
セイアはまず一つ、良いことをしたと思いました。
次の日、セイアはマカロンをどっさり作って、ミカの病室へ行きました。
そっと覗いてみると、ミカは昼食を食べかけて、茶碗を持ったままぼんやりと考え込んでいました。
奇妙なことに、ミカの頬には殴られた痕が残っています。
どうしたんだろう、とセイアが思っていると、ミカが独り言を言いました。
「いったい誰が、こんなところに『砂糖』で作ったロールケーキなんて持ち込んだんだろう。そのせいで私は『治るつもりがないのですか』とミネちゃんにひどい目にあわされちゃったし」
セイアは、これはしまったと思いました。
かわいそうにミカは、ミネにぶん殴られて、あんな傷まで負ってしまったのか。
セイアはそう思って、これならミネに見つかることもないだろう、とマカロンではなく小さな飴玉をそっと病室の入口において帰りました。
次の日も、その次の日もセイアは飴玉をそっと持ってきました。
その次の日には飴玉ばかりではなく、アビドスサイダーも持っていきました。
月のいい晩に、セイアはぶらぶら遊びに出かけました。
トリニティを歩いていると、ナギサが電話しているのを見つけました。
近くによってみると話声は段々と大きくなり、電話の相手がミカだということまで分かりました。
『そうそう、ナギちゃん』
「どうかされましたか、ミカさん?」
『私、最近変なことが起きるんだよ』
「変なこと、とは?」
『この間、セイアちゃんの姿を見たんだ。ミレニアムで』
「ミカさん、セイアさんはもう……」
『うん、動ける状態じゃないのは分かってるのにね、夢だと思う。問題はその後』
「……続けてください」
『ユウカちゃんが”そうなって”から……誰だか知らないけど、私に砂糖入りの飴玉やアビドスサイダーなんかを、毎日毎日くれるの』
「っ!? 誰がそのようなことを?」
『それが分からないの。監視カメラにも映っていなくて、私の知らないうちに置いていくの』
「それは、本当ですか?」
『本当だよ。嘘だと思うなら、明日見に来てよ』
セイアはミカがきちんと飴玉を認識していたことを知り、満足げに頷きました。
毎日回収されているので、美味しくいただいているに違いありません。
そんなセイアをよそに、二人の会話は続いています。
「……さきほどの話ですが、きっとそれはアビドスの陰謀に違いありません」
『えっ!?』
「私も考えてみましたが、姿を現さない、ということは監視カメラに細工できるということです。確かアビドスには、ミレニアムから離反したヴェリタスのメンバーがいましたね。彼女がハッキングして映像を差し替えて、そのすきにミカさんが中毒を維持するように仕向けたのでしょう」
『えっと、どうして私に?』
「ミカさんが治っては困る、ということでしょう。治療が成功すると知られれば、彼女たちの求心力が落ちます」
『考えすぎな気もするけど……』
「いいえ、そうに違いありません。ミレニアム内を動ける手の者がいるのです。だからミカさんも、警戒は怠らないようにお願いします」
『うん、わかった』
セイアは、これはつまらないな、と思いました。
「私が飴玉やアビドスサイダーを持って行っているのに、関係のないヴェリタスの人間の仕業だと思われているとは、ひきあわないね」
その翌日も、セイアは飴玉を持ってやってきました。
ちょうどミカは検査で席を外していて、病室には誰もいません。
それでセイアは、しめしめとお土産を置きに、病室の中へと入り込みました。
その時ミカが戻り、病室に入る誰かの気配を感じ取りました。
「……よしっ!」
ミカは自慢の愛銃Quis ut Deusのセーフティを外し、音もなくそっと近づき、今まさに出ようとしていたセイアを、ドンと撃ちました。
ついでに隕石も落としました。
ミカが駆け寄り、病室の中を見つめると、飴玉やらサイダーやらが山ほど置かれていました。
「えっ?」
ミカは驚き、目を丸くしてセイアを見下ろしました。
「セイアちゃん、貴女だったんだね。いつも飴玉をくれたのは」
セイアはぐったりと目をつぶったまま、頷きました。
ミカは愛銃を取り落とし、その銃口からはまだ硝煙が立ち上っていました。
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セイア「やあみんな『教えて! バーボンセイアせんせー!』の時間だ」
ナグサ「えっ?」
セイア「どうかしたかね?」
ナグサ「今死んでたよね?」
セイア「おいおい、キヴォトス人が撃たれた程度で死ぬわけがないだろう?」
ナグサ「生きてるんだ……そこは素直に死んでおこうよ。それにユウカって子は死んでた」
セイア「童話だからね、そういうこともある」
ナグサ「理不尽じゃない?」
セイア「主題はそこじゃないしね。とにかく今回は言わずもがな名作『ごんぎつね』のパロディだ。ちなみに配役は
茂兵:サクラコ
ごん:セイア
兵十:ミカ
兵十のおっかあ:ユウカ
いわし屋:ミネ
加助:ナギサ
となっている」
ナグサ「すごい、ごんと兵十しか覚えてないのに、こんなに人いたんだ」
セイア「これでも一部だ。全文は検索すれば出てくるから、よかったら読んで見比べてみると良い」
ナグサ「あとで読み直すよ」
セイア「さて今回の童話は、私のお茶目な可愛さが存分に詰め込まれた作品と言える」
ナグサ「お茶目? 治療中なのにさらに砂糖をあげようとする極悪な悪魔にしか見えないけど」
セイア「見解の相違だな。私は監禁されている病人がまともな食事も摂れていないと知って、善意で行動したのだよ」
ナグサ「物は言いようだね。ミカもユウカも治療のために自分で監禁されていることを除けば」
セイア「さて、それでは今回のバッドエンドについて説明するが」
ナグサ「あ、そういえばそのコーナーだった。う~ん、前線じゃなくても砂糖の危機はあるから気を付けろってこと?」
セイア「確かにそれもある。後方だからといって安全ではない。どこに砂糖の危険が潜んでいるかは分からない。完全に断ったと思っても、誰かが手引きすれば元の木阿弥だ。ミネが過敏になるのもうなずける話だね」
ナグサ「そう聞くとかなり危険な状況だよね。治療が成功するかどうかさえ曖昧な時期に、失敗するように暗躍している人物が潜んでるってのは」
セイア「医療知識を持たない人間が善意で行動しても逆効果になることは往々にしてある。アルコール依存症や禁煙治療の甲斐なく失敗に終わることは珍しくない。なぜそうしているのか、どうすることが助けになるのか、家族、友人の理解と協力は必須といえよう」
ナグサ「理解せずに砂糖を広めているのを見ると大事だと感じるね。鏡を見せたくなる」
セイア「相変わらず私はセクシーだね。見たまえこの脚線美」
ナグサ「ダメだこりゃ」
セイア「ミカがどうすればよかったのかというと、最初に私を見た段階で捕まえて会話していれば防げたことだね。エデン条約編で会話することの重要性を理解したと思っていたのだけれどね」
ナグサ「暴れないように抑えていたのに? 理不尽すぎない?」
セイア「童話だからね。一つの選択ミスが即座にバッドエンドにつながることは珍しくない」
ナグサ「さっきそれもある、って言ってたけど、パロディ童話で全部作り話なんだし、結局バッドエンドもなにもなくない?」
セイア「確かに作り話なのだが、今回は少し趣向を変えてだね、ゲーム『アンハッピーシュガーライフ』をやるうえでのバッドエンドを紹介しよう」
ナグサ「あのゲームにこれ出てくるの?」
セイア「ゲーム本編とは関わらない、いわゆるフレーバーテキストというやつだね。読んでも別に特別なフラグとかは立たない、世界観に奥行きを持たせたりする、開発者のちょっとした遊び心だ」
ナグサ「読んで済むだけならバッドエンドじゃないよね?」
セイア「うむ、これがバッドエンド扱いされるのは、RTAをやったときだね」
ナグサ「え、RTA?」
セイア「ゲーム中に文献を漁るために、小関ウイをコントロールするパートがあるのだが」
ナグサ「うん」
セイア「その先のフラグを立てる重要書籍の隣にこの童話は置かれてある。そしてウイは読書家だ」
ナグサ「あ」
セイア「本棚を調べるときにちょっと角度が違ってしまうと、この本を手に取ってしまう訳だね。しかも初めてだと強制的に読み上げムービーが入る。ウイが思わず夢中で読んでしまった、という演出なのだが」
ナグサ「……タイムロスでRTA失敗、リアルバッドエンドってことか」
セイア「一部の特殊な遊び方をしている人向けのバッドエンドだね。簡単にクリアされたら悔しいじゃないか」
ナグサ「性根が曲がっている」
セイア「誉め言葉と受け取るよ。あとこのムービーはクリア後にアーカイブに収録されていつでも見直すことができる。その際の読み上げには、アビドスのカルテルトリオのボイスでも聞くことができる親切設計だ。寝る前のASMRとして使っても良いし、梅花園などで読み聞かせに使ってくれるとありがたいね」
ナグサ「教育に悪すぎる」
セイア「ちなみにワールドワイドを見越して、私も中国語でボイス収録に参加している」
ナグサ「日本語を飛ばしてなぜ中国語……?」
ナグサ「そろそろバッドエンドの数も増えて来たし、結構働いたよね」
セイア「そうだね。いつも助かっているよ。独り言ばかりではつまらないし」
ナグサ「そろそろ焼き鳥食べた分は働いたと思うけど」
セイア「何か用事でも? ああそういえば『ワスレナグサ』があったか」
ナグサ「うん、だから」
セイア「でもそれ一本だけだろう? 現状ここがほぼ大手になっているのだから逃がすつもりはないよ。他にも出演依頼が多く来ていて忙しいのなら、私も大人しく他のゲストを探すが?」
ナグサ「……くそう」